4.魯迅公園
上海のベストスポットをいくつか上げろと言われれば、わたくしは間違いなく、この魯迅公園をお勧めします。第二次世界大戦までは、この公園は「新日本公園」と名付けられ周囲には日本人が数多く住まいしておりました。急速に開発が進む上海市内でも開発が後手に回っているところで、当時の住まいがそのまま残っています。車が通らなければ、当時の雰囲気そのままに感じることができます。春には桃売り、夏には西瓜売り、秋にはドラム缶で焼き芋を売る光景が、今でも路地のかしこで、味わえる訳です。定食屋では、肉饅頭や野菜を入れた饅頭などを店頭売りし、店内では、一杯4RMB程度(60円)の麺が食べられます。辛醤麺、雪菜肉スー麺(シュエツアイロースーメン、高菜と豚肉を細く切り炒めてトロミをつけた汁麺)、紅焼牛肉麺などが定番でしょう。

さて、本題の公園ですが、小高い丘があり、ボートが漕げる池もあり、かなり大きな公園です。この公園には、早朝から千を優に超す熟年の人たちが集まります。まず、正面入り口から入場して見ましょう。最初のゾーンは、社交ダンス、太極拳、剣舞の集団に出会います。現在人気があるのは社交ダンスです。人気のあるリーダーのところには、ざっと100人程度の生徒が集合し、真剣にワルツ、なんとジルバさえも踊ります。平均年齢は65歳前後と思われます。白髪の人が多く、踊りは初めてと見えるぎこちないステップを踏む老人も少なくないのですが、わたくしが関心するのは、誰も恥ずかしがっていないこと、周囲の目を気にしていないところです。100人ほどの集団となりますと、リーダーはハンドマイクを持ち気合と号令をかけながら指導します。一緒にステップを踏んでいても、見よう見まねで飛び入りして踊っていても何も言われません。傍らでは、ゆったりとしたテンポで太極拳をする集団を見かけます。その隣では、長い房のついた刀剣を、自由に操りながらの剣舞の集団。上下、赤やピンクの揃いのトレーニング着に、長さ30センチはあろうかと見える大きな扇を、閉じたり開いたりしながら、蝶のように舞っている(と本人は絶対思っている)おばあちゃんの集団。この入り口から、老人の皆さんの力強さに圧倒されること間違いないでしょう。この先には何があるのか、どきどきしながら、更に公園の奥に入って行きましょう。

小高い丘が見えるとともに力強い大合唱が聞こえてきます。ここは、歌声サークルのゾーンとなります。「我愛中国」のような国を称える歌から、草原の娘の恋愛歌、大海原に船を漕ぎ出す歌とか、基本は、みんなの知っている愛唱歌を、皆で朗々と歌いあげます。
古木にはカレンダーの裏に大きな字で書き写した歌詞集がぶら下げてあります。リーダーは、出だしのワンフレーズ歌い、指揮をとります。わたくしも一緒に歌詞を見ながら、歌っていたところ、日本人と分かったらしく、カレンダーを何枚かめくって、千昌男の「北国之春」(中国では古くから大変有名)を出して参りました。一番を日本語で高らかに歌い、皆さんより拍手を頂き大変良い気分になっていたところ、リーダーからは、ここの歌い方はこうしたほうが良いと何箇所か指摘を受け、歌唱指導を受けてしまいました。
通路に従って、歩みを進めますと、アスファルト道路に水筆で運筆の練習をしている人たちに出会います。使用している筆は、ペットボトルの先に筆先を括りつけたものです。漢詩(おそらく)を綿々と道路に書き込んでゆきます。書道3級というわたくしが評価するのはおこがましいのですが、達筆と思います。弘法は筆を選ばなかったのだなと、詰まらぬ結論を付けて、よく見ていると、ある人は逆文字(半紙を裏返しした時の文字)を書いております。また、ある人は、逆さ文字(向かいあった人から見て正しい文字、書いている本人は逆さに書いている)が、これまた達筆。パチパチ拍手をしたら、「中日友好」と逆さ文字の草書で技を見せてくれました。運筆ロードを抜けると、バドミントンサークル、江南歌劇を二胡や手風琴の調べに乗せて歌う老人集団、ヨガサークル、画眉(ホアメイ)という鳥の鳴き合わせグループ、トランプに興じる人々、鉄棒で大車輪を見せる老人。力強い老人の皆さんに圧倒されながら、1時間弱の散歩コースが終了するわけです。

これほど公園が賑わっているのは、中国の医療費が高いので、病気にならぬよう健康に気を使っているのだという話しも聞きますし、住宅が狭く環境が悪いので外に出ているしかないのだと言う人もおりますが、公園の活用は、日本よりも数段上手と感じ入る次第です。
柳の木の下のベンチに腰をかけて、持参の水筒でお茶を飲んでいると伸び伸びした気持ちになること間違いありません。入場料は60円です。

在上海見!

白酒大王(中国語名:バイジューダーワン) 略歴
広東省広州市に3年住み、現在は上海在住。怪しげな中国語を操りながら、ガイドブックには決して載らない、市場や路地裏探訪をなによりも好む。大食い。甑岳聖海師と小学生時代に机を並べたと言われる。