2.上海蟹
10月を過ぎると上海人はそわそわし始めます。蟹のシーズンの始まりです。
陽澄湖の蟹が美味しいと言われます。この湖は、水質が良く、湖の底の固い岩盤がしまった蟹肉を作ってくれるそうです。市井の蟹評論家によれば、湖の場所によって水質が違うので、どの湖の場所で取れたかも重要なのだそうです。まるで、ワインのようですが、わたくしにはその味の違いは全く分かりません。

一体、値段はいくらなのかと申しあげますと、この湖で取れた上海蟹の最上物は200gから250gの重さで、いっぱい8000円から1万円も致します。この値段は産地と大きさと時期によって違いがでてきます。10月から11月にかけてはメスの蟹、それ以降はオスの蟹が美味しいとされ、大きいものほど値段が張ります。自宅で通常食べる上海蟹は、市場で500g単位で値段がつき、安いものですと500g(1斤 イージンと発音)500円前後で購入可能ですが、食べるのに手間がかかる割には身が少なく、わたくしはイライラしてきます。

蟹の食べ方には作法または順序があるとうるさい上海人もおります。上手な食べ手は、一本一本の足の先の肉まできれいに食べ、食べたあとに、胴体と足をくっつけるともとの形になるといいます。また、胴体と足とどちらを先に食べるのかは、意見が分かれるところですが、冷めやすい足から食べるのが一般的です。特徴はあの濃厚な味噌に尽きるとわたくしは思います。暖めた紹興酒を含み、初めて一箸口中に入れたときの感動は強烈です。
ウニとフォアグラとアンコウの胆との競合。しかし、濃厚な味は飽きるもので、現在では一シーズンで食べる蟹の数は3匹程度です。なお、この寒い時期に上海に来た客人に蟹を出さないのは失礼にあたるそうです。蟹が出てきたら間違いなく、歓迎の気持ちとお取りください。

蟹を使った料理で美味しいのは、蟹饅頭と蟹豆腐。蟹脚の身とアスパラガスの炒め物。組み合わせは、饅頭や豆腐など、自己主張しないおとなしい素材との組み合わせがわたくしは好きです。

上海人の蟹に対する思い入れはかなりのもので、町内、隣人、親戚でバス仕立てで上海郊外の蟹レストランに土日に出かける光景を見かけます。あるレストランでは、蟹を目の前に、ぐびぐび紹興酒をあおり、興奮のあまり椅子ごとひっくり返ったおじさんを見たことがありますが、今年一番印象に残ったのは、市内の車も通らぬ路地にテーブルを持ち出し、小さな蟹を山盛りにして爺さん、婆さん、孫も入り、楽しげに蟹を食す光景です。朧の月も出ており、別世界に居合わせた気持ちになりました。オールド上海の路地裏はどんどん消えてゆきます。

再上海見!
 

白酒大王(中国語名:バイジューダーワン) 略歴
広東省広州市に3年住み、現在は上海在住。怪しげな中国語を操りながら、ガイドブックには決して載らない、市場や路地裏探訪をなによりも好む。大食い。甑岳聖海師と小学生時代に机を並べたと言われる。