第6講 『嚴秘必験祈祷法』より【勝軍地蔵法】詳解

 前回はベースとなる片供の解説をいたしました。純密の次第は、片供に十八道契印が伴います。日光修験で伝法される「役行者片供」や私が修法している片供の「大黒天護摩供」は、十八道建立の正式な作法です。
 しかし、『嚴秘必験祈祷法』は全て雑密の作法であり、純密の作法に則ったものではありません。不完全な作法の中に、行者は秩序の糸口を己自身で見つけなければなりません。こうした事は、画一的な加行しか受けた事のない行者には理解しがたい事かもしれません。中世の行者たちの多くは、こうした行法の中に、かなりの緊張感を以って修法していたと思います。修験法流の雑密の修法にはこうした面白さがあるのです。

             

 まさに駆け足で、本題に入る様な作法です。護身法の記載はありませんが、当然、三禮の前に行わなければなりません。三禮は普禮真言を唱えます。着座勧請具とは、着座して塗香、弁備供物、焼香までの所作です。但しこの一連の流れは、伝によって相違があると存じますので、各流に准じて下さい。
 因みに私は、着座した後、洒水器、火舎の順で蓋を開けます。次いで右人差し指の爪と中指の先で塗香を摘み、左手掌の中央に置きます。それを右人差し指の先で取り、額中央に着けます。さらに同様に右人差し指に塗香を取り、舌上に含みます。そして、残った塗香を両手掌甲に刷り込む様に塗り、最後に外縛した掌を胸に押し当てるながら解く様に三度塗ります。そして塗香を再び摘み、塗香器に盛ります。次は香合を左手に乗せ、抹香を右手親指と人差指で摘み、その一つまみの中で、先ず火舎に焼香した後、残りを閼伽と洒水に入れます。最後に次第書を薫香して一連の動作を終えます。
 法螺は愛宕勝軍神祇秘法に倣って下さい。「祈願の螺」を立てても差し支えありません。灑水、加持供物は、洒水作法の事です。此処も各流に従って下さい。
外縛印で唱える「ヲン マカジヤ ソワカ」は三反唱え、その都度強く胸に押し当てます。高林坊咒から金平坊咒の明は唱えるそれぞれ三反唱える毎に、閉じた十指を三度づつ軽く開閉する様にします。
 中指を立て合わせてた外縛印は、「天狗自在神通ソワカ」を三反唱えながら、次の所作を行います。一回目は右旋三反、二回目は左旋三反した後、三回目は立て合わせた中指を招く様に屈します。

                 

 閼伽、振鈴はどれだけ、順密の作法を入れるか迷う処です。私は加行で習った天台の法曼流に准じて修法しています。従って閼伽は事供、理養の順に華座まで行った後に振鈴に入ります。振鈴は、流派が同じでもその所作は師僧によって相当の違いがあります。
 参考にはならないと思いますが、試しに私が修している所作を詳しく記してみます。両手を拳にして腰に案じ、金剛杵の真言を三反唱え終わると同時に、拳を下腹部を軽く打つようにして散じます。そして杵を取り、薫香した後で、「ウン」を唱えながら胸の前で三反右旋した後、額、右肩、左肩、心、喉の五処を杵で加持し、手首を捻る様に杵を右乳脇に安じます。その後で左手で五鈷鈴を取り、金剛鈴の真言を唱えながら、腰から斜め左上に五度、左頬の辺で二度、左耳の辺で二度の合わせて九度振ります。これが後鈴では各々が三度、二度、二度の合わせて七度となります。振鈴が終わった後は、杵と対象となる様に五鈷鈴をもった左手首を捻り、左乳脇に安じます。その後、杵で再び五処を加持した後、先ず黄金井\r 脩を右手杵の上を越える様にして元の場所に置き、杵を添える様に置きます。こうした細かい所作の随所に観想が伴います。しかし此処ではそれを明らかにする事はできません。詳細に説明を尽くしたつもりですが、あくまでもうわべの動作のみです。口伝を書いて伝える事は到底不可能な事です。また他伝を学んだ行者にとっては、この様な説明を読んでも、何の役にも立ちません。それが師資相承の奥深さというものです。
 しかし詳解と銘打っている以上、加行を受けていない方の為に少し手ほどきをします。この際、動作にはこだわらないで鈴を鳴らす事としましょう。五鈷鈴の振鈴とは、如来の五智の説法の声を表わしています。この如来の声を聞く者は五欲を離れ五分法身をさとるといわれています。ですから、鈴の音を聞く者を清め、悟りに導くと観想して下さい。
 本尊同真言は、前々回に「愛宕勝軍神祇秘法」で解説した本尊正印に准じて下さい。すなわち立て合わせる両中指を宝珠形にして、その中に本尊が入ると観想するのです。

 この様な雑密を修法する場合、次第書の行間に何を読むかが大切です。純密の作法を取り入れ、十八道建立にする事も可能です。雑密としてのダイナミズムを活かし、観想で補足して対応する事も出来るでしょう。そうした匙加減は修法する行者次第です。