第5講【勝軍地蔵法・稲(飯)綱智羅天法・ダキニ天秘法】の片供について

 前回の「愛岩(宕)軍勝神祇法」に引き続き、『嚴秘必験祈祷法』の詳解を続けます。「愛岩(宕)軍勝神祇法」は、法具類を必要としませんが、他の次第は密教法具を用いて修法します。しかし通常の諸尊法などの前後の供養で使用する全ての法具を用いる訳ではありません。いずれの次第も、一対づつある法具の片方しか用いません。すなわち、一対つづある閼伽、塗香、華鬘、飯器、灯明は、それぞれ一つだけしか用いない、いわゆる「片供」で修法するのです。これらの次第を片供作法で行う事を明記しなかった為に、『嚴秘必験祈祷法』を見て戸惑った方が多くいたと存じます。言葉足らずだった事を反省し、各次第の詳解をする前に、共通する部分となる「片供」作法について説明いたします。片供は伝に因って、荘厳や作法に色々に違いが有る様です。以下の説明はあくまで一例として参考にして下さい。

 片供には、供物により大まかに二つのやり方があります。先ず、簡易な方法としては、以下の様に閼伽、塗香、華鬘、飯器、灯明がそれぞれ一つに、火舎、洒水器、鈴を添えるものです。火舎の位置は、天台では奥に、真言では手前に置きます。

丁寧な修法では以上に供物として酒と菓子、それに銭が加わる場合があります。以下は私が修法する大黒天護摩供の荘厳です。これは「阿娑縛抄」に基づくものです。閼伽と洒水は兼ねています。


次第書では、「勝軍地蔵法」、「稲(飯)綱智羅天法」、「ダキニ天秘法」それぞれの片供作法は共通した作法になっております。流れとして、振鈴の前に閼伽があり、間に所作が入り、散念珠の後に後供養(閼伽、塗香、華鬘、飯器、灯明)を行います。閼伽だけは都合二度繰り返す事になります。

供養の中身となる事供養と理供養についても触れておきます。事供養と理供養は宗派によって、作法が違います。天台でも事供、理供の順で行う流派もあれば、反対に理供、事供の順で行う流派もあります。因みに、私が習った天台の法曼流では事供、理供の順で行います。『嚴秘必験祈祷法』では、古文書の通りの理供、事供の順となっておりますが、各々の流派に依った方がよいと思います。私が修法する場合は、『嚴秘必験祈祷法』のオリジナルの次第とは逆になりますが、伝授を受けた通りに事供、理供の順で行っています。因みに「阿娑縛抄」の大黒天法では、逆に前供養部分で片供を行い、後供養に閼伽のみを再度行うのですが、混乱しますので触れません。荘厳のみを倣って下さい。ただこの場合は、飯食の際は、先ず菓子、次に酒、そして飯食の順に事供を行い、理供はまとめて飯食真言を用いて一回で済ませます。銭は燈明の後に普供養真言を用いて行いますが、銭の理供養は、両親指と人差指の間に銭を挟む様に普印を組みます。なお、普供養は次第にはありませんが、銭の供養には、普供養も含まれる事となりますので、続けて普供養を行う事はしません。

片供は、正直に言って、一般的に修法されている作法であるとは言い難いものがあります。真言・天台とも加行を片供で行う事はしません。片供は口伝として伝授される事が多い様です。ですから片供を知らない行者さんも多いと思います。一度も修法した事がないという方が殆どかもしれません。しかし、日光修験では、「役行者片供」の伝授が行われおりますし、当家の古文書を始め、古い修験系の次第書には片供の行法がしばしば見受けられます。「弘法大師片供」、「理源大師片供」などの次第もある様です。実際に、天部系の御祈祷に片供を用いてみますと、少ない仏器で非常に合理的に修法出来る事が分かります。

次回からは、実際に「勝軍地蔵法」から、その細かい所作の説明に入ります。