第16講/甑岳観音寺文書『御幣切方大事』より(その6)

『天照大神幣』
天照大神は羽黒では天照皇大神宮(てんしょうこうたいじんぐう)として、勤行後に宝号を唱える際は一番最初に唱えられます。その天津神の系譜は、私如きが語るものではありません。天照大神は神仏習合時代、羽黒を始め修験の世界でも崇敬されていました。神仏分離以後、そのお姿を修験寺院では拝む事がありませんが、出羽三山周辺の神社などには天照大神が日向国に降臨した際の姿とされる雨宝童子が多く秘蔵されています。殆どは秘仏とされ、教育委員会のリストを拝するだけとなっているのが残念です。雨宝童子は天照大神の本地仏で大日如来の化身ともされるだけではく、十一面観音の眷属でもあります。修験の世界では天照大神は、雨宝童子として姿を変え崇められていたのかもしれません。自坊の壇鏡の裏に、当山の御神体と共に雨宝童子を祭っていますが、安置すると童子に坊内の空気が一変した事を覚えています。

「天照大神幣」
この御幣には知々理は入りません。
 
「天照大神幣」(原本) 「天照大神幣」型紙
『山王幣』

山王権現は比叡山一山の護法の任を担う日吉大社のことです。この御幣が当山派だった湯殿系寺院の当家に伝わっている事は興味深いものがあります。日吉大社の化身が猿である事から庚申信仰とも結び付き信仰を集めました。また山王は鬼門除けの神とされています。羽黒に叶宮(かのうのみや)と呼ばれる拝処があります。小さな沢が流れており、その流れ沿いにおびただしい数の猿の人形が祀られるています。石の橋があり、その下を裸で三度潜ると如何なる願いも叶うとされています。この叶宮は、実測した訳ではありませんが、月山の裏鬼門にあたり、庄内の金峰山(山形県鶴岡市にある当山派の修験の聖地)の鬼門にあたる場所となっている様です。私の推測の域ではありますが、猿=山王と考えると、この山王の御幣は鬼門の鎮護として用いられていたのかもしれません。
 
「山王幣」 「山王両脇幣」
御幣は半紙六枚を重ね知々理は中央から左右七七五七五三となっています。串は二尺二寸です。両脇の御幣は半紙九枚を使い知々理は七五三で、串は一尺八寸です。
 
「峰中カケ上リ幣」(原本) 「峰中カケ上リ幣」型紙
   
「山王両脇幣」(原本)  「山王両脇幣」(型紙) 
『白山幣』

北陸・中部にまたがってそびえる白山を御神体とするのが白山権現です。生と死にまつわる神話の主人公であるイザナキ、イザナミを祭神とする白山権現は、羽黒修験では重要な存在です。峰入りの際の道中で最初に拝む拝処が白山権現なのです。擬死再生の意味を持つ羽黒の峰中行においては、こうして拝する事により体の基本的な組織が形づくられる事になります。神仏習合当時は生命の根源を司る存在として崇められていたのでしょう。


「白山幣」

知々理は中央から左右に二つ並ぶ箇所は共に三、そして五、七となります。串は一尺八寸です。
 
「白山幣」(原本) 「白山幣」型紙