法螺貝の音に始まる荒沢寺での勤行は荘厳な宗教儀礼だ。ロウソクの明かりが照らし出す中、行者の前に先達衆が姿を見せる。まるで花道に登場する歌舞伎役者の様に、堂内の視線を一身に集める。あの炎の揺らめきを背景に三禮する荘厳な様子は、どの様な有能な舞台演出家も真似する事は出来まい。
荒沢寺での勤行は法華経からなる法華懺法や例時作法といった経典群が中心に唱えられる。また経に止まらず神仏習合色が強い祭文も唱えられる。それらのそれぞれが独特の節を持っている。中には唄といってといっても良いほどのメロディを持つものもある。羽黒の経は実に様々な音を奏でる。
羽黒においては音は重要な要素だ。法螺貝は全ての行動の基点となる。また、勤行中には騒乱の様に雨戸が打ち鳴らされたり、火鉢に椿をくべてパチパチと音を立てたり、散杖と呼ばれる長い杖で盤を叩く音もある。これらは全て六根を清める意味があるとされる。これらの音はいつも不意に訪れる。そして我にかえる度に行者たちの精神が再生に向けてリセットされるていく。
幻想的な燈明の光り