第3回:五蘊盛空(その一)

拝処に手を合わせながら、羽黒山の2,446段の石段を経て荒沢寺に到着する。其処には電気も水道もない文明を拒絶した時空がある。十界行を通し、現在、過去、未来の三世を行き来する峰中行の舞台だ。行の前半は満足に食事も与えられず、また夜具もない不眠不休に近い荒沢寺の生活を、世界一豪華なホテル暮らしと揶揄する行者もいる。誰もがそれが本意でない事は分っているが、娑婆世界では決して味わえない体験が出来るという意味では、確信犯の行者にとっては「豪華なホテル暮らし」と云い得なくもない。

外界と隔絶され、峰中行は続けられる。法螺貝の音が行動の基点となり宗教儀礼が続けられる中、持っている腕時計は無意味なものとなる。一日24時間という時間の概念は、簡単に崩壊する。一日が数時間で終る日もあれば、数十時間たっても終らない日もある。こうした行中の時の流れは羽黒開山1400年以来こうしたものだったのであろうか。

今の娑婆の時計時間こそが異常なのかもしれない。巷にも神仏が生き生きと生息していた時代は、時の流れまでもが神仏の差配するものであった筈だ。行達は荒沢寺で職場や家族の小言は勿論、携帯もメールも届かない至福の安息時間を味わう事になる。


荒沢寺境内の石仏
 
「平成15年羽黒修験秋の峰」取材原稿(部分)より 

映像内容(要旨)
行道法螺貝の合図で、山伏たちの行列が始まった。
石段拝処で経を唱えながら老杉に囲まれた2446段の石段を登る。
白山権現
 
 
継子坂の白山権現の本地・十一面観音の垂迹は男女の結合を成したイザナミのミコト。
此処を拝する事で行者たちは「成血の位」に至る。
五重塔
 
仏舎利が納められている五重塔で「凝骨の位」となる。
息が次第に荒くなる中でこうして再生への鼓動を宿して行く。
三山合祭殿
 
羽黒山頂の三山合祭殿は明治の廃仏棄釈で神社となったが、かつて羽黒山寂光寺大金堂であった。
鏡池羽黒のご神体は実はこの立派な伽藍ではない。
行者点描
 
 

静寂を湛えた鏡池こそが本体なのだ。

行者たちは先ずは三山合祭殿に背を向けこの鏡池を拝し、次に祭殿を下から参拝する。

行者込み参道ロング受精した胚が、着床する胎盤を目指す如く行列は続く。
荒沢寺
 

その目的地、羽黒山荒沢寺。 魂の再生を図る神聖な場所だ。

電気も水道も無い、現世からは隔絶した空間。

荒沢寺前での行者一行深々秘密の道場としてこれまで頑なにその門を外部に閉ざしてきた。
導師言い渡し
 
 
導師SE
「明朝は一番法螺にて目を覚まし二番法螺にて装束をつけ、
三番法螺にて当峰大先達へ詰めさっしゃい。」
荒沢寺に入る行者今、初めて明かずの扉は開かれた。
法螺を吹く法螺先達荒沢寺での儀式は突然吹かれる法螺の合図で始まる。
起きだす行者仮眠の時間も束の間。
振れ役
 

堂内には金丁を叩く振れ役が催促する様に行者の寝床の間を回る。

にわかな喧騒の中、床をたたむ。

装束を着ける行者言い渡しに従い、二番法螺で装束を付ける。
行者点描
 
電気のない薄暗い不慣れな空間の中、初入峰と呼ばれる初参加者たちは慣れない身支度に苦戦する。