第1回:倶會十界(その一)

修験の行は、非日常的世界に自分を置く事が出来る格好の機会です。山野であったり、篭り堂であったりと、娑婆世界から完全に隔絶された世界が舞台となります。そこにはイヤな上司も生意気な後輩も、うるさい家族もいません。隠れ場の様な時空に身を置き、行に臨む事となります。
十年以上も秋の峰に参加していると親しい行仲間が出来ます。娑婆世界での利害関係を引きずらない彼らと語り合うのは、実に楽しいものです。峰入りが近づくにつれ、一人一人の顔が浮かんで来ます。8月24日、今年もやはり、山形県羽黒町手向にある正善院には、馴染みの顔が揃いました。
私は羽黒の行に参加して今年で11年目となりますから、延べにすると彼等と2ヶ月余りも寝食を共にした事になります。不眠不休の行で心身ともに疲れ果てている中、それぞれの我がぶつかり合います。いい顔ばかりもしていられません。おそらく、これが娑婆では見る事ができないそれぞれの本当の素顔なのでしょう。
同世代の仲間は、若者を偽っていた11年前とは違い、外見上も完全な中年となってしまいました。老眼の進行や体力の衰えなど、自分の内に老いが宿り始めました。この十年余りで、一人二人とベテランの先輩は峰行から姿を見せなくなりました。非日常という場ではあっても、人間の生老病死からは逃れる事は出来ないのです。


一年ぶりに集う行仲間
 
「平成15年羽黒修験秋の峰」取材原稿(部分)より 

大項目映像内容(要旨)
●峰入り修行「Ⅰ」葬式・宿坊町、羽黒町手向・8月24日、羽黒町手向(とうげ)。
・正善院・今を遡る事1,400年もの昔からこの地に集う人々がいる。
・集う平服の人たち・東北はもとより、関東、関西、北海道や九州から…近年は海外からも。
・荷物を解く・羽黒山正善院に、老若男女を問わず多士多彩な顔が揃う。
・装束を渡され着替える行者・彼らは古の昔から羽黒山に伝わる秋の峰と呼ばれる宗教儀礼に参加する修験者たちである。
・読経・挨拶も早々に市松模様に獅子を背負った装束に身を包むと、読経が始まる。
・上段天幕・幕で覆われた上段は誰も覗く事は出来ない。
・天幕を囲む行者・修験者たちの魂を抜く秘密の作法が行われているのだ。
・読経風景・この読経は、山伏たちが自分にあげる弔いの儀式だ。
・据えられた<笈(おい)>・こうして抜かれた一同の魂はこの山伏が背負う小さな箱「笈」の中に閉じ込められた。
・笈からがき・死者となった山伏たちがお善を囲む。
・酒を酌み交わす・自らの死出の旅路を祝う宴が始まった。
・宴点描・彼らにとって死出の旅とは決して辛いものではない。むしろ喜びなのだ。
・笈込みロング・彼らは生まれ変わり、つまりこの世の汚辱を捨て新しく「再生」するための死であるからだ。
・笈点描・現世への執着を断ち、魂の精神的復活を遂げる。
・夜の正善院・羽黒修験最大の儀式にして
これまで公開される事のなかった秘密の行は、自らの葬式から始まるのである。